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システム刷新プロジェクトの開始時に、利用部門の部長、情報システム部、経営層は洗い出したが、刷新で業務手順が変わるコールセンターの現場担当者を見落としていた。どのプロセスの不備で、何が起こりやすいか。

ステークホルダの特定の不備である。後になって現場から要求や反発が出て、手戻りや遅延が起こりやすい。

影響を受ける人は、影響を与える人と同じくステークホルダに含まれる。 特定で漏れた人の要求は計画に入らないため、テストや移行の段階で初めて表に出て、 変更のコストが大きくなった時点で対応を迫られる。

プロジェクトの途中で、要件に強い影響力を持つ部長が別の人に交代した。特定はプロジェクトの開始時に済んでいるので、そのまま作業を進めてよいか。

よくない。特定をやり直して新しい部長の関心・期待・影響力を把握し、ステークホルダ登録簿とマネジメントの方針を更新する。

ステークホルダは人事異動や組織変更、フェーズの移行で入れ替わる。 特定は開始時に一度行えば終わりではなく、状況が変わるたびに繰り返す。 前任者の合意を前提に進めると、新任者が方針を変えたときに大きな手戻りになる。

なぜステークホルダの特定は、プロジェクトのできるだけ早い段階で行うのか。

ステークホルダの影響力は初期ほど大きく、変更にかかるコストは初期ほど小さいからである。

要求や懸念を早く把握すれば、計画の段階で織り込める。 後半になってから要求が出ると、すでに作った成果物の作り直しが必要になる。 早く特定しておけば、反対しそうな人への働きかけも早く始められる。

ステークホルダの対象群は、プロジェクトに影響を与える人や影響を受ける人を洗い出して関心・影響力を記録する「ステークホルダの特定」と、そのニーズや期待に応え、課題に対処して支持を保つ「ステークホルダのマネジメント」の 2 つのプロセスからなり、どちらもプロジェクトの初めだけでなく終結まで繰り返す。

ステークホルダの対象群の 2 プロセス

プロセスプロセス群何をするか主に生み出すもの
ステークホルダの特定立ち上げ影響を与える・受ける個人や組織を洗い出し、関心と影響力を分析するステークホルダ登録簿
ステークホルダのマネジメント実行ニーズと期待に応え、課題に対処し、関与と支持を保つ変更要求

特定で作った登録簿がマネジメントのよりどころになり、マネジメントの中で新しいステークホルダや関心の変化が分かれば、特定に戻って登録簿を更新する。

ステークホルダ(利害関係者)は、プロジェクトに関心を持つ個人・グループ・組織で、 プロジェクトに影響を与えるもの、プロジェクトから影響を受けるもの(受けると自ら考えるものを含む)をいう。 主なステークホルダには次のようなものがある。

  • プロジェクトスポンサー — プロジェクトを認可し、資金や資源を提供する立場にある人。 プロジェクトマネージャの権限を超える意思決定や、問題・対立の解決を受け持つ
  • 顧客 — プロジェクトの成果物を受け取り、使う側。外部の発注者の場合も、社内の利用部門の場合もある
  • その他 — プロジェクトマネージャやプロジェクトチーム、利用者、経営層、関連部門、供給者(ベンダ)、 規制当局、地域住民など

プロジェクトに賛成する人だけでなく、反対する人や、自分がステークホルダだと意識していない人も含まれる。

ステークホルダの特定は、プロジェクトに影響を与える、または影響を受ける個人・グループ・組織を洗い出し、 それぞれの関心、期待、影響力、プロジェクトへの関わり方を分析して記録するプロセスである。

  • 洗い出しの手がかりには、プロジェクト憲章(スポンサーや主要な関係者が書かれている)、 プロジェクトの組織図、契約、過去の類似プロジェクトの記録などを使う
  • 洗い出した結果はステークホルダ登録簿にまとめる
  • 誰を重点的に扱うかを決めるためにステークホルダ分析を行う(→ 細目 03)

プロセス群では立ち上げに位置付けられ、プロジェクト憲章の作成と並んで最初期に行う。

洗い出しでは、「誰が決めるか」「誰がお金を出すか」「誰が使うか」「誰の仕事が変わるか」「誰が作るか」「誰が規制するか」 といった問いで漏れを防ぐ。社内の販売管理システムを刷新する場合の例を示す。

観点ステークホルダの例社内か社外か
認可し資金を出す担当役員(プロジェクトスポンサー)社内
成果物を使う営業部(顧客)、受注入力を行う事務担当者社内
仕事が変わる経理部(請求データの受け取り方が変わる)社内
作る・運用するプロジェクトチーム、情報システム部の運用担当社内
供給する開発を委託するベンダ、パッケージの提供元社外
影響を受ける取引先(受注方法や帳票が変わる場合)社外

経理部や取引先のように、プロジェクトに直接参加しないが影響を受ける相手は見落とされやすい。

ステークホルダのマネジメント

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ステークホルダのマネジメントは、ステークホルダのニーズと期待を理解して適切な注意を払い、 課題に対処し、プロジェクトへの支持を得て保つプロセスである。

  • 登録簿と分析の結果に基づいて、ステークホルダごとに関わり方(会議に参加してもらう、定期的に報告する など)を決めて実行する
  • 懸念や対立が表に出る前に話し合い、課題が起きたら原因を突き止めて解決する
  • 要求の追加や対立の解決のために計画を変える必要があれば、変更要求を出して変更の管理に回す

たとえば、事務担当者が「入力画面が変わると繁忙期にミスが増える」と懸念しているなら、 早めに画面の試作を見せて意見を聞く、操作研修の時期を繁忙期から外すといった手を打つ。 意見を反映するために画面の仕様を変えるなら、それは変更要求として扱う。

プロセス群では実行に位置付けられ、プロジェクトの最後まで続く。 ステークホルダとのやり取りは情報の伝達を伴うため、コミュニケーションの対象群と密接に結び付く。

特定がマネジメントの前提になる。登録簿に載っていない人には働きかけられないからである。 ただし一方通行ではない。ステークホルダは人事異動、組織変更、フェーズの移行、外部環境の変化で入れ替わり、 同じ人でも関心や態度が変わる。マネジメントの中でその変化に気付いたら、特定に戻って登録簿を更新する。

  • ステークホルダには、プロジェクトに影響を与える人だけでなく、影響を受ける人も含まれる。 「発注者とプロジェクトチームだけ」「賛成者だけ」とする選択肢は誤り
  • 特定はできるだけ早く行い、その後も繰り返す。「開始時に一度だけ行う」とする記述は不適切
  • マネジメントの目的は、ステークホルダの要求をすべて受け入れることではない。 影響と優先度を見て対応を決め、計画を変える場合は変更要求として変更の管理を通す
  • 問題文に「現場が反発した」「後から要求が出た」とあれば、特定の漏れや関与の不足が原因として問われていることが多い

プロジェクトの成否は、成果物を受け入れて使う人や、資源と権限を握る人の判断に左右される。 初期ほどステークホルダの影響力が大きく変更のコストが小さいので、早い段階で洗い出して要求を計画に織り込む。 さらに、ステークホルダとその関心はプロジェクトの途中でも変わるため、特定とマネジメントを終結まで繰り返す仕組みにしている。