刑法
第百六十一条の二と第百六十八条の二は、どちらも「不正な電磁的記録を作る」罪である。条文が求める目的(主観的要件)はどう違うか。
第百六十一条の二は「人の事務処理を誤らせる目的」、第百六十八条の二は「人の電子計算機における実行の用に供する目的」。 前者は事務処理の内容を誤らせることに向けられ、後者は他人の計算機で実行させることに向けられている。
第百六十一条の二と第百六十八条の二は、いずれも「作ること」と「使うこと」を別の項で規定している。刑の重さはどう扱われているか。
どちらも同じ刑になる。第百六十一条の二第 3 項は供用した者を「その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する」とし、 第百六十八条の二第 2 項は供用した者を「同項と同様とする」としている。
第二百三十四条の二と第二百四十六条の二は、いずれも計算機に「虚偽の情報若しくは不正な指令」を与える行為を含む。何によって区別されるか。
その結果として条文が捉えるものが違う。第二百三十四条の二は「人の業務を妨害した」ことを、 第二百四十六条の二は「財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた」ことを構成要件に置いている。
刑法は情報に関する犯罪として、電磁的記録不正作出及び供用(第百六十一条の二)、不正指令電磁的記録作成等(第百六十八条の二)、電子計算機損壊等業務妨害(第二百三十四条の二)、電子計算機使用詐欺(第二百四十六条の二)を定める。
情報に関する 4 か条の構成要件
| 条 | 見出し | 目的(条文が置く主観的要件) | 行為の対象 | 条文が結果として捉えるもの |
|---|---|---|---|---|
| 161 条の 2 | 電磁的記録不正作出及び供用 | 人の事務処理を誤らせる目的 | 権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録 | 不正に作ること / 事務処理の用に供すること |
| 168 条の 2 | 不正指令電磁的記録作成等 | 人の電子計算機における実行の用に供する目的 | 意図に沿うべき動作をさせない不正な指令を与える電磁的記録 | 作成・提供 / 実行の用に供すること |
| 234 条の 2 | 電子計算機損壊等業務妨害 | 条文に目的の定めを置かない | 人の業務に使用する電子計算機・電磁的記録 | 人の業務を妨害したこと |
| 246 条の 2 | 電子計算機使用詐欺 | 条文に目的の定めを置かない | 人の事務処理に使用する電子計算機 | 財産上不法の利益を得たこと |
電磁的記録不正作出及び供用(第百六十一条の二)
Section titled “電磁的記録不正作出及び供用(第百六十一条の二)”第 1 項は、「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する 電磁的記録を不正に作った者」を五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処すると定める。
対象は電磁的記録一般ではなく、「権利、義務又は事実証明に関する」ものに限られている。
第 2 項は、その罪が「公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録」に係るときは十年以下の拘禁刑又は 百万円以下の罰金とし、法定刑を重くしている。
第 3 項は、不正に作られた電磁的記録を第 1 項の目的で「人の事務処理の用に供した者」を、 その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処すると定める。作ることと使うことが別の項に置かれ、 刑は同じになる。第 4 項はこの供用の未遂を罰する。
不正指令電磁的記録作成等(第百六十八条の二)
Section titled “不正指令電磁的記録作成等(第百六十八条の二)”第 1 項は、「正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で」次の記録を作成・提供した者を 三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処すると定める。
- 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき 不正な指令を与える電磁的記録
- 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
第 1 号が指令そのものを含む記録、第 2 号がその指令を記述した記録である。 第 2 号は「前号に掲げるもののほか」で始まり、第 1 号とは別に置かれている。
第 2 項は、「正当な理由がないのに」第 1 項第一号の電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者を 同項と同様とし、第 3 項がその未遂を罰する。「正当な理由がないのに」という文言は第 1 項と第 2 項の どちらにも置かれている。
電子計算機損壊等業務妨害(第二百三十四条の二)
Section titled “電子計算機損壊等業務妨害(第二百三十四条の二)”第 1 項は、次のいずれかによって「電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作を させて、人の業務を妨害した者」を五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処すると定める。
- 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊すること
- 人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えること
- その他の方法
「その他の方法」が置かれているため、手段は前 2 つに限られない。第 2 項は未遂を罰する。
電子計算機使用詐欺(第二百四十六条の二)
Section titled “電子計算機使用詐欺(第二百四十六条の二)”「前条に規定するもののほか」として、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて、 財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、または財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を 人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者を十年以下の拘禁刑に処する。
条文が捉える結果は「財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた」ことであり、 行為の側は不実の電磁的記録を作ることと、虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供することの 2 つが並んでいる。