コストの対象群が含むプロセス
「コストの見積り」と「予算の作成」は何が違うか。見積りを足し合わせただけのものを予算と呼んでよいか。
見積りは活動ごとのコストの予測、予算はそれを積み上げて予備を加え、時間軸に配分して承認を得た基準である。単に足し合わせただけでは予算にならない。
見積りの段階では「この活動にはいくらかかりそうか」という予測にすぎない。 予算の作成では、活動ごとの見積りをワークパッケージ、プロジェクト全体へと積み上げ、リスクに備える予備を加え、 いつどれだけ使うかをスケジュールに沿って配分する。承認された時点で、以後の実績を測る基準(コストベースライン)になる。
コストの管理で、実コストが予算を上回り始めていると分かった。(a) 残りの作業のやり方を見直せば予算内に戻せる場合と、(b) どうしても予算を増やすしかない場合とで、PM がとる対応はそれぞれ何か。
(a) は是正処置、(b) は変更要求として変更の管理に回す。
是正処置は、コストベースラインを変えずに、今後の実績を計画に近づける対応である。 (b) は予算というベースラインそのものを変えるので、変更要求として影響を評価し、承認を得てから計画を改める。 なお体系によっては(PMBOK 系など)、(a) の是正処置も変更要求の一種として変更の管理を通す。
コストの管理で、実コストだけでなく「出来高」(終わった作業の価値)も測るのはなぜか。
実コストが予算より少なくても、作業が遅れているだけかもしれず、実コストだけでは良し悪しを判断できないからである。
たとえば、ある時点までに 100 万円使う予定のところ 80 万円しか使っていなくても、 予定の半分の作業しか終わっていなければ、コストは実質的に超過している。 終わった作業の価値(出来高)と実コストを比べて初めて、効率よく作業できているかが分かる。この考え方を体系化したのが EVM である。
コストの対象群は、活動ごとに必要なコストを見積もる「コストの見積り」、見積りを積み上げて時間軸に配分し承認された予算にする「予算の作成」、実コストを予算と比べて差異を分析し、予想コストを出して是正処置や変更要求につなげる「コストの管理」の 3 つのプロセスからなる。
コストの 3 プロセスと、五つのプロセス群との対応(JIS Q 21500 の枠組み)
| プロセス群 | プロセス | 何をするか | 主に生み出すもの |
|---|---|---|---|
| 計画 | コストの見積り | 活動ごとに必要な資源の費用を見積もる | コスト見積り |
| 計画 | 予算の作成 | 見積りを積み上げ、予備を加えて時間軸に配分し、承認を得る | 予算(コストベースライン) |
| 管理 | コストの管理 | 実コストを予算と比べ、差異を分析して完成時のコストを予測する | 実コスト、予想コスト、是正処置、変更要求 |
見積り → 予算 → 管理の順にアウトプットが次のインプットになる。 コストの管理は実行中に繰り返し行い、見積りや予算も承認された変更に応じて見直される。
コストの対象群が扱うこと
Section titled “コストの対象群が扱うこと”コストの対象群は、プロジェクトを承認された予算の範囲内で完了させるためのプロセスをまとめたものである。 予算を作成し、進捗状況を監視して、コストを管理する。 コストはスコープ(作るものの量)や時間(スケジュール)と強く結び付いており、 スコープが増えればコストも増え、納期を縮めるために要員を増やせばコストが増える。 そのため、コストの計画や変更は、統合の対象群(全体計画の作成、変更の管理)を通してほかの対象群と調整される。
コストの見積り
Section titled “コストの見積り”コストの見積りは、プロジェクトの活動を完了するのに必要な資源(人、設備、材料、外部への発注など)の費用を見積もるプロセスである。 見積りのよりどころになるのは、作業を分解した WBS や活動の一覧、スケジュール、必要な資源の量などである。
見積りの手法には、過去の類似プロジェクトの実績から推定する類推見積り、規模などの変数と単価の関係式から計算するパラメトリック見積り、 WBS の下位要素から積み上げるボトムアップ見積り、最頻値・楽観値・悲観値から求める三点見積りなどがある(ツールと技法のノートで扱う)。 プロジェクト初期は情報が少ないため見積りの幅が大きく、詳細が分かるにつれて精度を上げていく。
予算の作成は、活動ごとの見積りを積み上げ、プロジェクト全体の予算を決めるプロセスである。次の 3 つを行う。
- 活動の見積りをワークパッケージ、さらにプロジェクト全体へと積み上げる
- 特定したリスクに備える予備(コンティンジェンシー予備)を加える
- スケジュールに沿って、いつどれだけのコストを使うかを配分する
時間軸に配分した予算を累積していくと、なだらかな S 字の曲線(S カーブ)になることが多い。 承認された時間軸付きの予算がコストベースラインであり、コストの管理で実績を測る基準になる。 予期しない事態に備えるマネジメント予備は、コストベースラインの外に置くのが一般的である。
コストの管理
Section titled “コストの管理”コストの管理は、プロジェクトの進捗に応じて実際にかかったコスト(実コスト)を把握し、予算と比べて差異を分析するプロセスである。 インプットは、作業の指揮から得られる進捗データ、予算、全体計画などである。
- 差異の大きさと原因を分析する。EVM を使えば、予定に対する進み具合とコスト効率を数値で表せる
- 現在の傾向から、完成時にいくらかかるか(予想コスト)を予測する
- 差異への対応として、コストベースラインを変えずに今後の実績を計画に近づける是正処置を出す。 ベースラインを変える必要があれば変更要求を出し、変更の管理で承認を得てから予算を改める。 ただし体系によっては(PMBOK 系など)、是正処置も変更要求の一種として扱い、変更の管理を通して承認を得てから実施する
承認されていない作業や変更にコストが使われないよう、支出が承認された範囲に収まっているかを確かめることも含まれる。
試験での注意
Section titled “試験での注意”- コストの対象群のプロセスは JIS Q 21500 では見積り・予算の作成・管理の 3 つで、見積りと予算の作成が計画、コストの管理が管理のプロセス群に属する。 PMBOK 系の体系では、これらの前に「コストのマネジメントをどう行うかを計画する」プロセスを置くため、プロセス数が異なる
- 見積りは予測、予算は承認された基準である。見積りの合計にリスクへの予備を加え、時間軸に配分したものがコストベースラインになる
- 実コストが予算より少ないことは、それだけでは「順調」の根拠にならない。出来高と比べて判断する
- コストベースラインを変える対応は変更要求であり、PM が独断で予算を書き換えることはできない
なぜそうなっているのか
Section titled “なぜそうなっているのか”見積りと予算を別のプロセスに分けるのは、個々の活動の予測と、組織が承認して資金を確保する基準とでは性質が違うからである。 予測は情報が増えれば更新してよいが、基準が勝手に変わると、計画と実績を比べてもプロジェクトの状態を判断できない。 そのため、予算はベースラインとして固定し、変えるときは変更の管理を通す仕組みにしている。