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青少年インターネット環境整備法は、フィルタリングについて誰にどんな義務を課しているか。「利用が義務づけられている」と読んでよいか。

第六条第一項は保護者について、インターネットの利用の状況を適切に把握するとともに、 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの利用その他の方法によりインターネットの利用を適切に管理し、 その青少年のインターネットを適切に活用する能力の習得の促進に努めるものとすると定める(努力義務)。 第十七条はインターネット接続役務提供事業者について、提供を受ける者から求められたときは フィルタリングソフトウェア又はフィルタリングサービスを提供しなければならないとする (ただし書に政令で定める例外がある)。 この 2 条は、いずれも利用者側にフィルタリングの利用そのものを義務づける形にはなっていない。

情報処理学会 倫理綱領は、何を「遵守する」ものとして書かれているか。法令とはどう位置づけが違うか。

前文は「情報処理技術の研究、開発および利用にあたっては、適用される法令とともに、 次の行動規範を遵守する」と書く。法令に代わるものではなく、法令に加えて守る行動規範という位置づけである。 綱領は学会が定めた自主的な規範であり、法令のように国が制定したものではない。

情報倫理・技術者倫理に対応する一次情報としては、青少年インターネット環境整備法が保護者の努力義務とインターネット接続役務提供事業者の求めに応じたフィルタリング提供義務(影響が軽微な場合として政令で定める場合を除く)を分けて置き、ヘイトスピーチ解消法が「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」を定義して解消に向けた取組の推進を目的とし、公益通報者保護法が各号の要件を満たす公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る)が行った解雇を無効とし、情報処理学会 倫理綱領が法令とは別に会員の行動規範を 3 つの立場に分けて定めている。

この細目で条文・綱領から確認できる定め

出典箇所名宛人定めていること
青少年インターネット環境整備法第二条第三項—「青少年有害情報」=インターネットを利用して公衆の閲覧(視聴を含む)に供され、青少年の健全な成長を著しく阻害する情報
青少年インターネット環境整備法第六条保護者利用状況の把握、フィルタリング等による管理、活用能力習得の促進に努める
青少年インターネット環境整備法第十七条インターネット接続役務提供事業者求められたときはフィルタリングを提供しなければならない(ただし書あり)
ヘイトスピーチ解消法第二条—「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」の定義(対象は本邦の域外にある国・地域の出身者又はその子孫であって適法に居住するもの)
公益通報者保護法第三条柱書前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る)各号に定める公益通報をしたことを理由とする解雇は無効
公益通報者保護法第十一条事業者第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報について従事者を定め、体制を整備する
情報処理学会 倫理綱領前文学会会員適用される法令とともに行動規範を遵守する

青少年有害情報とフィルタリング

Section titled “青少年有害情報とフィルタリング”

第二条第三項は「青少年有害情報」を、インターネットを利用して公衆の閲覧(視聴を含む)に供されている情報で あって青少年の健全な成長を著しく阻害するものと定義する。「著しく」という限定が定義に入っている。

この法律の特徴は、フィルタリングに関する義務が主体ごとに違う形で置かれている点である。 第六条第一項は保護者に対し、インターネットにおいて青少年有害情報が多く流通していることを認識し、 自らの教育方針及び青少年の発達段階に応じ、その保護する青少年について利用の状況を適切に把握するとともに、 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの利用その他の方法により利用を適切に管理し、 活用する能力の習得の促進に努めるものとすると定める。文末が「努めるものとする」であり努力義務である。 同条第二項は、携帯電話端末等からのインターネットの利用が不適切に行われた場合には、青少年の売春、 犯罪の被害、いじめ等様々な問題が生じることに特に留意するものとする、としている。

第十七条はインターネット接続役務提供事業者に対し、インターネット接続役務の提供を受ける者から 求められたときは、青少年有害情報フィルタリングソフトウェア又は青少年有害情報フィルタリングサービスを 提供しなければならないとする。ただし書があり、青少年による青少年有害情報の閲覧に及ぼす影響が軽微な場合として 政令で定める場合はこの限りでない。義務の発生が「求められたとき」に係っている点と、 ただし書による例外がある点の両方を落とさずに読む必要がある。

「ヘイトスピーチ」に対応する法令上の語

Section titled “「ヘイトスピーチ」に対応する法令上の語”

シラバスの用語例は「ヘイトスピーチ」を挙げるが、法令上の語は 本邦外出身者に対する不当な差別的言動である。法律の題名にも第一条・第二条の条文にも 「ヘイトスピーチ」という語は現れない。

第二条の定義は、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって 適法に居住するもの(本邦外出身者)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で、公然とその生命、身体、 自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し、又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、 本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する 不当な差別的言動をいう、というものである。対象者を「適法に居住するもの」に限っている点が定義に明記されている。

第一条は、この法律の目的を、不当な差別的言動の解消に向けた取組について基本理念を定め、 国等の責務を明らかにするとともに、基本的施策を定め、これを推進することとしている。 目的として掲げられているのは取組の推進であり、特定の行為を禁止することは第一条には挙げられていない。

公益通報者保護法第三条柱書は、労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ 当該各号に定める公益通報をしたことを理由として、前条第一項第一号に定める事業者 (当該労働者を自ら使用するものに限る)が行った解雇を無効とする。要件が各号に分かれて置かれているため、通報という行為だけで一律に保護されるという 読み方はできない。

第十一条第一項は事業者に、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、通報対象事実の調査をし、 その是正に必要な措置をとる業務に従事する者を定めることを求める。第二項は、同じく第三条第一号及び 第六条第一号に定める公益通報に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとることを求める。 どちらも対象がこの 2 つの号に定める公益通報に限られている。個人の側の保護(第三条)と 事業者の側の体制(第十一条)が別の条に置かれている。

前文は「我々情報処理学会会員は、情報処理技術が国境を越えて社会に対して強くかつ広い影響力を持つことを認識し、 情報処理技術が社会に貢献し公益に寄与することを願い、情報処理技術の研究、開発および利用にあたっては、 適用される法令とともに、次の行動規範を遵守する」と述べる。

綱領は行動規範を 3 つの立場に分けている。

  • 1. 社会の一員として(1.1〜1.9): 他者の生命・健康・安全・財産を侵害しない、人格とプライバシーを尊重する、 知的財産権と知的成果を尊重する、運用規則や利用規則を遵守する、文化の多様性に配慮し差別を行わない、 いかなる種類のハラスメントも行わない、他者や環境を危険にさらす可能性のある情報を得た場合は 迅速に開示するか関係者に通知する(1.9)、など。
  • 2. 専門家として(2.1〜2.6): 専門能力の向上に努める、事実やデータを尊重する(2.2)、 社会やユーザへの影響とリスクについて配慮する、依頼者との契約や合意を尊重し秘匿情報を守る、 利益相反を可能な限り回避し存在する場合は影響を受ける当事者に開示する、 違法行為を回避しあらゆる形態の贈収賄を拒否する。
  • 3. 組織責任者として(3.1〜3.5): 影響を受けるすべての人々の要求に応じ尊厳を損なわないよう配慮する、 管理方針の異なる情報システムの存在を認め相互接続が人格を侵害しないよう配慮する、 資源の正当かつ適切な利用のための規則を作成し実施に責任を持つ、組織の構成員が学ぶ機会を設ける、 違反を報告した個人を保護し報復を行わない(3.5)。

同じ人でも、社会の一員としての立場、専門家としての立場、組織責任者としての立場で求められることが 異なる形に整理されているのがこの綱領の構造である。1.9 の「危険にさらす可能性のある情報の開示」と 3.5 の「違反を報告した個人の保護」は、用語例の「内部告発」と対応する位置にある。

シラバスの用語例には、ネチケット、チェーンメール、フェイクニュース、マルインフォメーション、 ディスインフォメーション、ミスインフォメーション、エコーチェンバー、フィルターバブル、デジタルタトゥー、 ファクトチェック、ELSI、集団思考、プロフェッショナリズム、インフォームドコンセント、 ペアレンタルコントロールといった語が並ぶ。これらは、この細目で根拠にした条文・綱領には現れない。 試験対策としては、シラバスがこれらの語を挙げていること自体を 押さえたうえで、条文で確認できる範囲(上の各節)と切り分けて扱う。

青少年インターネット環境整備法第一条は、「インターネットにおいて青少年有害情報が多く流通している状況に かんがみ」という認識を置いたうえで、青少年のインターネットを適切に活用する能力の習得に必要な措置と、 フィルタリングソフトウェアの性能の向上及び利用の普及その他の閲覧の機会をできるだけ少なくするための措置を 並べ、これらにより青少年の権利の擁護に資することを目的とすると書いている。

ヘイトスピーチ解消法第一条は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み」と 述べ、そこから基本理念・国等の責務・基本的施策という組み立てを導いている。

情報処理学会 倫理綱領の前文は「情報処理技術が国境を越えて社会に対して強くかつ広い影響力を持つことを認識し」 という理由を挙げたうえで、「適用される法令とともに」行動規範を遵守すると述べる。 綱領が法令の代替ではなく上乗せの位置に置かれていることは、この前文の書きぶりから直接読み取れる。

コンプライアンス との違い

観点情報倫理・技術者倫理(このノート)コンプライアンス
根拠として置かれているもの情報処理学会 倫理綱領のような、学会が定めた自主的な行動規範会社法・金融商品取引法・公益通報者保護法・外為法といった法令の条文
名宛人綱領を定めた学会の会員取締役会・事業者・取引を行おうとする居住者など、条文が指定する者
条文に置かれている義務・効果綱領には法律上の効果は置かれていない(法令ではないため)経済産業大臣の許可を受けなければならないという義務、各号に定める公益通報を理由に前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る)が行った解雇の無効など、法律上の効果が条文に置かれている